notte!|電車にノッテ楽しむサイト

星の上を歩く 最終回 ~太宰治と歩く三鷹・後編~
Facebook
Twitter
シェア

星の上を歩く 最終回 ~太宰治と歩く三鷹・後編~

こんにちは。こんばんは
東京お散歩ライターのユミです。
『星の上を歩く』6回目の本日は、「太宰治と歩く三鷹・後編」をお届けします。

写真

前回訪問した『太宰治文学サロン』から、ふたたび三鷹駅前に戻ってきました。
お散歩日和の空の下、まずやってきたのは……

写真

太宰治が入水したことでも知られる玉川上水です。
現在は穏やかな流れですが、当時は水量も多く、「人喰い川」と呼ばれていたとか。

この玉川上水の誕生は江戸時代まで遡ります。
羽村市から新宿区四谷まで全長43キロの玉川上水は、かつて江戸市中に飲料水を供給する重要な給水路でした。

写真(三鷹駅北口の玉川上水の様子)

そして現在の玉川上水は一部の流域で暗渠となって流れており、三鷹駅はちょうどその暗渠部分に建っています。

写真

さて。
そんな玉川上水沿いの遊歩道『風の散歩道』を歩いていくと……

見えてくるのは、『玉鹿石(ぎょっかせき)』と呼ばれる石です。

写真

1948年6月13日、太宰は愛人・山崎富栄とともに、このあたりから玉川上水へ入水したと言われています。
太宰の生まれ故郷である青森県五所川原市金木町が原産のこの石は、 そんな太宰治を偲ぶために設置され、今も静かに佇んでいます。

写真

しばらく歩くと、やがて風の散歩道の突きあたりに出ます。
横断歩道の先に見えるのは『万助橋(まんすけばし)』。

写真

三鷹市と武蔵野市の境界線に架かるこの橋。

『乞食学生』などの作品にも登場するこの橋を、太宰自身も足繁く渡っていたかもしれません。
そして、橋のすぐ近くから広がっているのは井の頭公園です。

写真

井の頭公園の中を歩いていると、子供をおぶったり、手を引いたりして歩く太宰の後ろ姿が目に浮かびます。
それはきっとどこにでもいる、ありふれた父親の背中だったことでしょう。

太宰一家は自宅からほど近い銭湯『連雀湯』に通っていました。
銭湯の跡地には現在は別の建物が建っていますが、ここ井の頭公園では今も変わらず野花が咲き、草木が芽吹く、自然の営みが続いています。

さて。
次は三鷹・禅林寺に向かってみましょう。
森鴎外こと、森林太郎のお墓もこちらにあります。

写真

太宰は生前に森鴎外の墓について、作品の中でこう述べています。

「この寺の裏には、森鴎外の墓がある。どういうわけで、鴎外の墓がこんな東京府下の三鷹町にあるのか、私にはわからない。けれども、ここの墓所は清潔で、鴎外の文章の片影がある。私の汚い骨も、こんな小綺麗な墓地の片隅に埋められたら、死後の救いがあるかも知れないと、ひそかに甘い空想をした日も無いではなかったが、今はもう、気持ちが畏縮してしまって、そんな空想など雲散霧消した」

引用:太宰治『花吹雪』より

このような太宰の意向を汲んで、亡くなった後太宰はこの禅林寺に葬られることになりました。

写真

5月のこの季節にも、太宰の墓前を訪れる人の姿があります。
白い紙に包まれた切り花を大事そうに抱え持つその人。
彼女はカメラを手にした私の姿を見るなり、はにかんだ顔で後ずさりました。

「お先にどうぞ」

それは、無言の合図です。

写真

地図とカメラだけをぶら下げて来た自分は、供える花も酒の用意もなく、まして墓石を見ふけっていた彼女のように、 太宰への特別な、何かしらの思いがあるのか。
たぐってはみるものの、そこには曖昧な手ごたえしかありません。

もしも私が太宰の小説の主人公だったら。
「まるで墓泥棒じゃないか」
そんな言葉で自分を恥じたりするのかもしれません。

写真に収めて、墓前の景色を持ち帰る。
考えてみれば、何とも浅ましい仕草です。

写真

けれど太宰に限って言えば。

考えながらカメラを構え、指がシャッターを切ります。
その墓標は死してなお、輝き続けるトロフィーなのではないだろうか。

彼がどこまでも愛されてやまない人物である。
その証拠として今なお墓前を訪れる人が絶えず、墓石までもが写真のモデルになっている。
この有りようを太宰治という人は、きっと喜ぶのではなかろうか。

開き直ったように私の指はシャッターを切り。
墓石との距離を縮め、ふたたびシャッターを切り。

情緒とは程遠い私の所作を見守っていた花束の彼女に頭を下げ、太宰治の眠る禅林寺を後にしました。

写真

さて、太宰ゆかりの場所として有名な場所をもう1つ訪ねてみましょう。

太宰が友人を案内したこともあったという、『跨線橋(こせんきょう)』です。

写真

中央線の上にかかるこの陸橋は、竣工当時(1929年)の姿のまま。

写真

冬は富士山も見渡せるというこの陸橋。
今でも多くの人が訪れ、この橋からの眺めを楽しんでいます。

写真

ぐるりと太宰ゆかりの場所をめぐって、三鷹駅前に戻ってきました。
太宰治と歩く三鷹のお散歩はここでお開きです。
本日もお付き合い、まことにありがとうございました。

あとがき

全6回にわたって東京の街並をお散歩してきた『星の上を歩く』も今回で最終回となりました。

美しい星の美しい時間を共に分かち合って下さったすべての皆さまに感謝の「ありがとう」とひとときの「さようなら」を。

またこの星のどこかでお会いしましょう!

取材協力

太宰治文学サロン

施設名 太宰治文学サロン
住所

〒181-0013 東京都三鷹市下連雀3-16-14 グランジャルダン三鷹1階
Googleマップ

最寄り駅 「三鷹」駅 徒歩約5分
備考

太宰治文学サロン 公式サイト
※『三鷹太宰治マップ』は「太宰治文学サロン」にて購入することができます。

禅林寺

施設名 禅林寺
住所

〒181-0013 東京都三鷹市下連雀4-18-20
Googleマップ

最寄り駅 「三鷹」駅 徒歩約10分
備考

禅林寺 公式サイト

記事を書いた人

東京お散歩ライター:ユミユミ:東京お散歩ライター
大学時代に美術史を学び、2015年4月より「notte!」編集部へ。
東京という街の成り立ちを紐解きながら、散策日記を執筆中。

過去の記事

関連記事